乳がん(症状・治療法)

乳がんは、女性がかかるがんの中でもっとも患者数が多いがんです。新しく診断される患者数も世界的に増加しています。その背景には、検査や診断の進歩により、ごく小さな乳がんでも発見できるようになったことにあります。そのため、増えているのは初期のがんであり、患者数が多いにもかかわらず、女性の部位別のがん死亡数は第4位です。乳がんは病理検査により「ホルモン受容体陽性乳がん」、「HER2(ハーツー)陽性乳がん」、「トリプルネガティブ乳がん」に分類されます。現在は乳がんのタイプに応じた新しい治療法や薬剤の開発も進んでおり、早期発見、治療すれば予後がよいがんといえます。早期発見のためには、日頃から乳房を意識する生活習慣を身につけ、セルフチェック、40歳以上の定期的な検診を心がけることが大切です。

  • 病気や治療などの医学的な経過についての見通しのこと

乳がんとは?

乳房は乳腺とそれを支える脂肪組織からなります。乳腺は乳頭から放射線状に張り巡らされている15~20の乳腺葉に分かれており、乳腺葉は乳管と乳腺小葉からできています(図)。授乳期には、乳腺小葉を構成している腺房が発達して母乳が作られ、乳管を通して分泌されます。乳腺小葉もしくは乳管の上皮細胞に発生するがんが乳がんです。乳がんは女性における部位別がん罹患数の1位であり、一生のうちおよそ9人に1人が乳がんと診断されています。30代後半から増え始め、40代後半~70歳代がピークです。まれですが、男性に発生することもあります。乳がんは、長年にわたって女性ホルモン(エストロゲン)レベルが高い状態にあることでリスクが高まるとされており、女性の社会進出が進み、未出産や高齢出産の女性が増えたことが、近年の乳がん患者の増加に関係しているといわれています。過度な飲酒の習慣や閉経後の肥満、乳がんにかかった家族がいることなども、発症のリスクを高めるとされています。

図 乳房の構造
乳房の構造

進行度で見る乳がんの種類

乳がんはその進行レベル、広がりによって、非浸潤がんと浸潤がんに分かれます。

非浸潤がん

がん細胞が乳管や乳腺小葉の中にとどまっているがんを非浸潤がんといいます。ステージ(病期)でいうと0期にあたります。リンパ節や他の臓器への遠隔転移のリスクが非常に低く、手術による根治の可能性も高いとされています。

浸潤がん

乳管や乳腺小葉の周囲まで広がっているがんを浸潤がんといいます。ステージでいうとⅠ期以降にあたります。乳がんと診断される場合、約80%以上は浸潤がんです。

乳がんのステージ(病期)

乳がんのステージ(病期)は、がんが乳房の中でどこまで広がっているか、がんの大きさ、リンパ節転移があるか、乳房から離れた臓器(骨や肺など)への転移があるかなどによって0期~Ⅳ期までの5段階に分けられ、さらに細かくⅡA期、ⅡB期、ⅢA期、ⅢB期、ⅢC期を加えた8期に分類されています(表)。

表 乳がんの病期
乳がんの病期

日本乳癌学会 編: 臨床・病理 乳癌取扱い規約 第18版. 金原出版株式会社. 2018. より作成

乳がんの症状

乳がんの症状には、しこり、乳房のえくぼ、ただれ、左右の形が非対称になる、乳頭から分泌物が出る、などがあります。入浴や着替えのときなどに自分自身でセルフチェックを心がけることも大切ですが、症状だけで乳がんか他の病気かを区別することは難しいことに加え、しこりや目に見える症状がほとんどない場合もあるため、乳房の異常や症状に気付いたときには時間をおかずに医療機関を受診し、医師に相談しましょう。

しこり

乳房内にしこりを感じることがあります。一般的に、乳がん以外の病気のしこりはやわらかく、よく動く一方で、乳がんによるしこりは、かたく、ゴツゴツしている、押しても痛みがないとされています。乳房にしこりができる病気は他にもあるため、しこりが感じられたからといって必ずしも乳がんとは限りません。月経周期により乳腺がかたくなり、痛みやしこりを感じることもありますし、乳がんとは関係のない良性の変化や腫瘍でしこりが生じている可能性もあります。

  • 良性の腫瘍は通常ゆっくりと大きくなり、生涯にわたって症状が出ないものや生命に影響を及ぼさないものもあります。そのため、腫瘍のできた場所や大きさなどを総合的に判断し、必要に応じて手術(外科治療)を行います。

えくぼのような凹凸

乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、皮膚のくぼみができることがあります。具体的にはしこりが触れた部分の皮膚が陥凹してきたり、つまんでゆがみを作った際に、中央が陥没してえくぼのような凹凸がみられます。

ただれ

乳頭や乳輪の皮膚に湿疹ができ、改善しない場合があります。さらにただれて出血、かゆみを生じることもあります。

左右非対称

乳房に左右差があるかどうか、鏡に映して観察しましょう。左右の乳房の大きさ、皮膚の色に違いがないか、皮膚や乳頭のへこみはないか、形が変形していないか、チェックすることが大切です。

分泌物が出る

乳頭から血液が混じった分泌物(茶褐色や黒色のことが多い)がみられた場合には、乳腺の良性疾患である場合もありますが、乳がんが隠れている可能性もあります。透明や白色の分泌物は、乳腺症に伴って起こる症状であることが多いとされています。

  • 30~40歳代の女性に多くみられる、乳腺のさまざまな良性変化のこと

わきの下の腫れ・しこり

乳がんのがん細胞は、わきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)に転移し、それがあると全身に転移しやすくなると考えられています。腋窩リンパ節に転移すると、わきの下の腫れやしこりを触って確認できるようになります。

乳がんの検査方法

腫瘍の位置や大きさ、形状、数を把握するため、まずは視診や触診、マンモグラフィ(乳房X線検査)、超音波(エコー)検査などをおこないます。乳がんが疑われる場合は腫瘍の細胞や組織を採って顕微鏡で調べ、診断を確定します。また、がんの広がり方や転移しているかどうかを調べるために、CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ、PET検査などの画像検査をおこないます。

マンモグラフィ

マンモグラフィは乳房専用のX線検査です。乳腺の重なりを少なくするために、2枚の板の間に乳房を挟んで圧迫し、薄く伸ばして撮影します。がんの位置や広がりを調べることができる検査で、小さながんや微細な石灰化(乳房の一部にカルシウムが付着したもの)も見つけることができます。ただし、高濃度乳房といって、乳腺の密度が高く、マンモグラフィで白く見える部分が多い状態では、がんがあっても見つかりにくいことがあります。

超音波検査

ベッドにあおむけになり、腕を上げた状態でプローブと呼ばれる超音波を発生する機械を乳房にあて、さまざまな方向に滑らせながら超音波の反射の様子を画像で確認します。超音波検査では、腫瘍があるかどうか、腫瘍の性状や大きさ、わきの下など周囲のリンパ節への転移を調べることができます。乳腺と腫瘍はエコーレベルが異なることが多く、乳腺は白く多くの乳がんは黒く映るため、マンモグラフィでがんが見つかりにくい高濃度乳房であっても、超音波検査が乳がんの発見に役立つことがあります。放射線による被ばくの心配がないため、妊娠中でもおこなうことができる検査です。

細胞診・組織診(針生検)

マンモグラフィや超音波検査で腫瘍や石灰化が見つかった場合に、細胞や組織の一部を採取して顕微鏡で直接調べることで、がんかどうかを確定診断するための検査です。

  • 細胞診:腫瘍が良性か悪性かを判別することができます。乳頭からの分泌物がある場合に分泌物中の細胞を検査するためにおこなう、分泌物に対する細胞診の他、腫瘍部分に細い針を刺して細胞を吸引し調べる、穿刺吸引細胞診があります。細胞診ではまれに偽陰性や、偽陽性が発生することがあります。
    • 悪性の腫瘍は細胞が無秩序に増えながら周囲にしみ込むように広がったり(浸潤)、転移したりします。そのため、放っておくと全身に広がり、体にさまざまな悪影響をもたらす恐れがあります。
  • 組織診:腫瘍が良性か悪性かを判別する他に、がんであった場合はその種類(非浸潤性か浸潤性か)、性質、悪性度なども調べることができます。局所麻酔をおこない、腫瘍部分に針を刺して組織を採取します。

乳がんの治療法

乳がんの治療法には、主に手術、放射線治療、薬物療法がありますが、遠隔転移していることが明らかな場合を除き、がんを手術によって切除することが治療の中心です。がんの状態によっては、術前に薬物療法をおこなうこともあります。また、手術後の病理検査によって、術後の治療計画を検討します。

手術

手術には、「乳房部分切除術(乳房温存手術)」と「乳房全切除術」があります。乳房部分切除術は、患者さんが美容的に満足できるように乳房を残すことを目的におこなう手術方法ですが、がんが予想よりも広がっている場合は、手術中に乳房全切除術に変更したり、再手術で乳房全切除術をおこなったりすることもあります。乳房全切除術は、乳房をすべて切除する手術方法であり、がんが広範囲に広がっている場合や、離れた位置に複数ある場合におこなわれます。また、手術前の細胞診などでわきのリンパ節に転移があることが前もって分かっている場合や、手術中のセンチネルリンパ節生検などでわきの下のリンパ節にがんが転移していた場合は、腋窩リンパ節郭清といって、リンパ節を切除する手術をおこないます。

  • 乳がんからがん細胞が最初にたどりつくリンパ節

放射線治療

乳がんに対する放射線治療は、乳房部分切除術とセットでおこなわれることが多いです。温存した乳房全体に放射線を照射し、温存した乳房、リンパ節からの再発を防ぎます。また、乳房全切除術の後でもわきの下のリンパ節に転移があったり、しこりが大きかったりする患者さんなどに、再発や転移のリスクを下げる目的で照射することがあります。1日1回、週5回で約4~6週間かけて照射するのが一般的です。

薬物療法

乳がんに対する薬物療法で用いられる薬には、ホルモン療法薬、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬があります。術前におこなう場合は手術前にがんを小さくするためや薬物に対する効果を判定するため、術後におこなう場合は再発のリスクを下げる目的でおこないます。また、手術が困難な進行がんである場合や再発した場合に延命や症状を緩和するためにおこなうこともあります。どの薬を用いるかは、乳がんの性質や悪性度、全身の状態、患者さんの希望によって選択します。乳がんは診断時の病理検査により「ホルモン受容体陽性乳がん」、「HER2(ハーツー)陽性乳がん」、「トリプルネガティブ乳がん」に分類され、現在は乳がんのタイプに応じた新しい治療法や薬剤の開発も進んでいます。

乳がんの早期発見・予防

乳がんはマンモグラフィをはじめとした検査や診断の進歩により、ごく小さな乳がんでも発見できるようになりました。また、治療法や薬剤の開発も進んでいます。早期に発見し適切な治療を受ければ、予後がよいがんです。日頃から乳房を意識する生活習慣を身につけ、セルフチェック、40歳以上の女性は2年に1回の定期検診をおこなうことで、早期発見に努めることが大切です。

月に1度はセルフチェック

乳がんはセルフチェックで見つけることができる数少ないがんの1つですが、普段の自分の乳房の状態を知ることで、初めて変化に気づくことができます。乳房を意識する生活習慣を「ブレスト・アウェアネス」といいます。入浴時や着替えの時など、日常生活のちょっとした機会に乳房のしこりや皮膚のくぼみ・ひきつれ、乳頭からの分泌物、乳頭や乳輪のびらんがないか、など変化に気を付けることを生活習慣にしましょう。

<セルフチェックの方法>
上半身が裸の状態でおこないます。浴室内でおこなう場合は、手にせっけんをつけておくと滑りがよくなり、チェックしやすくなります。

  1. 鏡の前に立ち、腕を下げた状態で、左右の乳房の形、大きさの違い、皮膚のくぼみやひきつれ、赤み、乳頭のへこみがないかをチェックします。
  2. 腕を上げた状態で①をおこないます。
  3. 数本の指をそろえて渦巻き状に円を描きながら指の腹で触り、しこりがないかを調べます。
    セルフチェックの方法3
  4. 左右、上下でも指の腹で触り、しこりがないかを調べます。
    セルフチェックの方法4
  5. 乳頭をつまんでみて、赤や茶褐色、黒色などの分泌液がないかチェックします。
  6. あおむけに寝た状態で、乳房の外側から内側に手を滑らせ、しこりがないかを調べます。わきの下もまんべんなく触るようにしましょう。

40歳以上は定期検診を

40歳以上の女性は2年に1回、乳がん検診を受けましょう。ほとんどの市区町村では、検診費用の多くを公費で負担しており、一部の自己負担で検診を受けることができます。検診の内容は、マンモグラフィと問診です。また、検診の結果が「要精密検査(がんの疑いあり)」となった場合は放置せず、必ず精密検査を受けましょう。

予防

がんの予防には、禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、適度な運動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。乳がんも例外ではありません。過度な飲酒を控え、閉経後の肥満を避けるために体重を管理し、適度な運動をおこなうようにしましょう。

乳がんについて、詳しくは乳がんの症状・早期発見のページもご覧ください。