具体的なサポート内容は?

治療のこと

自分が何を重視して
治療を選択したいのか
気づくことができる

治療についての相談はどんな内容が多いですか?

上垣 美江 さん

何を基準に治療法を選んだらいいかわからない、という相談がとても多いです。他には、副作用に対して不安に思われる方もいらっしゃいます。

長谷川 尚子 さん

治療に関する相談はとても多くて、治療が始まる前と治療中、どちらもありますね。再発した方から「治療をやめて余命を過ごすか、治療を続けるか、どうしたらいいだろう」といった相談もあります。

それはどのように解決していくのでしょうか?

上垣 美江 さん

副作用に関しては、医師から説明されたすべての副作用が一度に起こると思ってしまう患者さんもいらっしゃいます。そこで、副作用の起こる時期や起こる頻度は人によって違うということをお伝えし、副作用への備えとして必要な情報を整理していきます。また、治療法の選択に関しては、その方がどのような価値観を持って生きようとされているのかが一番大事になります。治療を決めるとき、患者さんはとても迷われますが、そこに正解・不正解はありません。納得して治療をするためには、考える時間やご自身が決めていく過程がとても大切なんです。

長谷川 尚子 さん

治療を決めてから、やっぱり別の方を選んでおけばよかったかな、と思われる方が結構いらっしゃいます。そういう方には「あのときはこれを大切だと思って選んだのだから、その選択は間違いじゃなかったよね、正解だったよね」とお話しすることもありますね。

自分が何を大切にしたいのか、すぐにはわからないかもしれません

上垣 美江 さん

患者さんとお話ししていると「家族に迷惑をかけたくない」とか「治療を続けたいけど、寝たきりになってまで治療を続けるのは自分らしく生きているって言えるのかな」などと、おっしゃることがあります。そのような患者さんの口から自然と出てくる言葉が、その方の価値観を表しているのだと思います。

長谷川 尚子 さん

人の考えというのは元々ぶれるものです。1週間前とは考えが変わった、朝と午後では考えが違う、テレビをみて誰かに感銘を受けたからこう思うようになった、などということはよくあります。考えが変わることはごく自然なことですし、その瞬間の気持ちで治療法を選んだとしても本当に自分が思ったことだったら、それは正解ではないでしょうか。だからこそ、患者さん自身の考えを口に出してもらうことを大切にしています。

上垣 美江 さん

「この間は治療すると言ったのに、やっぱり怖くなっちゃったのでやめたいんですけど、どうしましょう」という患者さんもたくさんいらっしゃいます。でも気持ちは変わっていいんです、変わって当然なのです。

医療費のこと

医療費の負担を
軽くするための
方法について
相談ができる

医療費の相談にものっていただけるのでしょうか?

長谷川 尚子 さん

医療費についての相談もとても多いです。今の経済状況を伺った上で、患者さんごとに使える公的制度やサービスを紹介し、こういう工夫をすれば医療費が軽減できる、などのお話をしています。

かなり具体的に相談にのっていただけるのですね

長谷川 尚子 さん

患者さんによって経済状況が異なりますので、一人ひとり具体的に支援しています。公的サービスを受けるための交渉や手続きなどは、初回は一緒にやってみて、次回からは患者さん自身でできるようにサポートすることもあります。医療費の負担が治療の妨げにならないよう、なるべく早く、無理なく治療生活を送ることができるようにしています。

転院・ホスピスのこと

最期を過ごす場所について
希望を伝えながら相談できる

最期をどこで迎えたいかを考えて「転院したい、ホスピスを探したい」と思った場合は、どのように相談にのっていただけるのでしょうか?

長谷川 尚子 さん

がん相談支援センターでは地域ごとの病院リストを作っていますので、そのリストをお見せしながら、どの場所の病院だと都合がいいかなど患者さんの希望を聞いていきます。また、緩和ケア病棟への入院は期間が限られる場合もあるので、緩和ケア病棟以外にも、緩和ケアができる有料の施設や、お家で訪問介護を受けながら過ごすといった他の選択肢についてもお話ししています。

上垣 美江 さん

コロナ禍があって、病院だとなかなか面会することができないため、最近では在宅医療を選ばれる方が増えました。

実際、転院する場合には、手続きの方法なども相談にのっていただけるのでしょうか?

長谷川 尚子 さん

はい、相談にのっています。患者さん自身で手続きするのが難しそうな場合は、転院のための受診予約の電話を一緒にかけるなどのお手伝いもしています。

在宅で治療するとなった場合は、どのようにサポートしていただけるのでしょうか?

長谷川 尚子 さん

病棟看護師や退院調整をしている看護師、ケアマネージャー、往診の先生、訪問看護師などと連携しながら、患者さんの退院から在宅への移行をサポートしています。ご家族には病棟看護師から、ご自宅での患者さんのケアについて指導をしています。患者さんの身体の変化に伴い必要なケアが増えた場合には、その都度、訪問看護師からご家族への指導やサポートをしています。

仕事のこと

がん治療をしながら
仕事を続ける上での
実践的な
アドバイスをもらえる

仕事についてはどのような相談が多いですか?

長谷川 尚子 さん

現在仕事に就いている方の場合だと、「(病気と診断されて)通院で休まないといけないことを、職場にどう伝えたらいいかわからない」、「治療のために休職したいが、手続きの方法や休職中の給料や補償がどうなるのかわからない」といった相談が多いです。

職場環境によって、どう対応すればよいか違いがありそうですね

長谷川 尚子 さん

はい、周りの方との関係によっても異なります。病気の話をしやすいオープンな職場もあれば、話しにくい職場もあります。話しにくい職場の場合、最初は病名を伝えずに「しばらく通院が必要だと医者に言われました」という程度にとどめるなど、職場環境を伺いながらこう伝えた方がいいのではないか、などのお話をしています。また、社会保険労務士による相談では、就業規則を確認した上で、会社との交渉方法などについてアドバイスをもらえる場合もあります。

仕事探しの相談にものっていただけるのでしょうか

長谷川 尚子 さん

そのような相談にものっています。ハローワークの方が定期的に来ている病院では、履歴書の書き方から自分の強みをどうアピールすればいいかまで、丁寧に指導してもらえます。就職がゴールではなく仕事を続けることがゴールなので、その方の病状に合った働き方を見つけることも必要です。病状によって立ち仕事が好ましくないこともあるので、ソーシャルワーカーとも相談しながら、その方の状態に合わせた働き方や仕事を探していきます。

上垣 美江 さん

患者さんは大きな病気になったことを告げられると、仕事より治療に専念しなければ、という気持ちが先に立ちます。そのため「治療しながら仕事なんてできない」、「仕事を辞めて治療の環境を整えないと」とよくおっしゃいます。ただ、治療だけに向き合うことはいい面ばかりではありません。治療のことばかり考えていると気持ちの余裕がなくなってしまうこともあります。そういった面で、治療中に気持ちを切り替えられる場所として、仕事の場を持っておくことも大切ではないでしょうか。また、治療中や治療後の生活のことを考えると、仕事を続けられるのであれば続けた方がいいと思います。

長谷川 尚子 さん

仕事を辞めなかった方から、「職場にいる間はがんのことを忘れられるから辞めなくてよかった」と聞くことは多いです。ただ、診断直後は治療法をはじめ、色々なことを決めていく必要があるため、仕事を続けるか、同僚にどう説明するか、などの悩みを一つでも減らしたいという気持ちから、治療開始までに仕事を辞めてしまう方も少なくないです。がん相談支援センターでは、仕事を続ける方法や工夫について一緒に考えることができますので、早い段階で相談いただくのがいいと思います。

人間関係のこと

家族や主治医との
関係についても
相談にのってもらえる

人間関係についての相談もありますか?

上垣 美江 さん

ご家族に関する相談もあります。「私はAという治療法を選びたいけれども、家族はBを選んだ方がいいと言っている。どう説得したらいいでしょう」などの相談です。最終的には患者さん自身の意思が一番大事ではあるのですが、支えてくださるご家族の気持ちをむげにしたことを後悔してしまう方もいらっしゃいます。そのため、ときには「ご家族の方も一緒にお話ししてみませんか」と提案して、実際に家族の方にも来ていただいてお話しすることもあります。患者さんとご家族それぞれの意見を聞きつつ、折り合いをつけられるところを一緒に考えていきます。

医療者とのコミュニケーションの相談もあるのでしょうか?

上垣 美江 さん

医師との関係で悩まれている方もいます。「先生に聞きたいことが上手く聞けない」、「聞くといつも威圧的に返されてしまうので、聞けなくなってしまった」、「主治医を替えたい」などの相談があります。

その場合はどんな解決法があるのでしょうか?

上垣 美江 さん

不安なく治療を受けられること、聞きたいことを聞けるようになることを目的に、患者さん側の立ち回り方の工夫を一緒に考えます。院内の先生であれば、私たちも少なからず、どういうタイプの先生かわかります。先生のタイプによって「聞き方をこう工夫してみたらどうだろう」、「メモに書いて整理してから伝えてみよう」、「ご家族や友人に診察に付き添ってもらって、代弁してもらってはどうだろう」など、具体的な工夫を提案しています。場合によっては、私たちから外来の看護師にサポートをお願いすることもあります。

先生はいつも忙しそうで聞きづらい、こんなことを聞いていいのか迷う、ということもありそうです

上垣 美江 さん

そうですね。「こんなことをどこで聞いていいか、誰に聞いていいかわからないし、先生にもなかなか聞けなくて」といって相談に来られる方も多いです。そんなときは、ぜひがん相談支援センターを活用していただきたいです。

心のケアのこと

気持ちを吐き出すことで
心が楽になり、
前に進む
きっかけになることも

具体的な悩みの相談ではなく、なんとなく不安、誰かと話したいという方もいらっしゃいますか?

上垣 美江 さん

ご自身が何に困っているかがわからず、漠然と不安を抱えて来られる方もいらっしゃいます。そういう方には「今日、一番気がかりなこと」、「一番心配していること」を尋ねて、出てきたことから一緒に考えています。一度に色々なことを考えようとすると、頭の中が整理できず余計に不安が大きくなってしまうので、思いついたことから気持ちを吐き出してもらっています。そうすることで「何だかすっきりして、できる気がしてきた」とおっしゃっていただけることもあります。独りで考えるよりも誰かと気持ちを分かち合うことで、少し前向きになったり、新たな視点が見えてきたりするのではないでしょうか。

完全に解決しなくても、話すことで気持ちが少し変わるということでしょうか?

上垣 美江 さん

はい。ご自身で考えはじめるきっかけになることもあるようです。その場では解決しなくても、次に外来などでお会いしたときに「なぜだか、上手くいきました」とおっしゃる方もいます。少し視点を変えてみるとそんなに悩むことでもなかった、と患者さん自身で気づかれることもありますね。答えはすでに患者さんご自身がお持ちなのかもしれません。

今は患者さん同士による支え合い(ピアサポート)もいろんなところにありますね

長谷川 尚子 さん

コミュニケーションのトレーニングを受けたピアサポーターが病院に来てお話を伺うこともありますし、院内でも患者サロン(患者さん同士で情報交換する場)を開催しているところもあります。色々な面で、自分より先に治療した方の体験談が聞けるのは心強いと思います。また、地域ごとの患者会もたくさんありますので、相談があった場合には私達が調べられる範囲でお答えしています。