運動について

がんと診断された後は精神的なストレスはもちろん、がんそのものによる食欲低下、だるさ、痛みなどの症状で動きたくないと感じるかもしれません。また、安静にしておこうと考える患者さんも多くいらっしゃいます。実際に、がんの治療中、そして治療後は、患者さんの活動量は診断前に比べ、大きく低下するといわれています。しかし、診断直後から治療中、治療後に至るまで、身体を動かすことにはたくさんのメリットがあります。

がん治療中の身体の状態

身体の中にがんが存在していると、がん組織が正常な組織の栄養を奪ってしまうことによって身体の衰弱が起こりやすい状態にあります。それに加えて治療による負担や、精神的なストレスによっても、心身ともに疲れてしまい、身体を動かさなくなる、食欲が低下し栄養が十分に摂れなくなる、といった状況に陥りがちです。さらには、筋力の低下、身体の機能の低下が起こることでいっそう疲れやすくなり、疲れるから動かない、動かないせいでさらに体力が低下する、といった悪循環が起こります。この悪循環を断ち切るために必要なのが、運動療法と栄養療法です。

がん治療中の身体の状態
がん治療中の身体の状態
医師

運動療法と栄養療法、2つの側面から筋肉量や体重の減少を防ぐことが大切です。

各時期のリハビリテーションの目的

通常のリハビリテーションは身体に何らかの障害が起こってから受けるのが一般的ですが、がん治療におけるリハビリテーションはがんと診断されたのち、治療前の機能の障害はまだない時期より予防的に開始されることがあります。がんやがん治療によって影響を受けた身体の回復力を高め、残っている身体の機能を維持・向上させることを目的におこなわれます。がんと診断された後、治療が始まる前であっても身体を動かすことは、治療による合併症や後遺症などを予防することにつながります。

がんのリハビリテーション医療の
病期別の目的

各時期のリハビリテーションの目的
各時期のリハビリテーションの目的

がん治療において身体を動かすメリット

がん治療において身体を動かすことには以下のメリットがあるといわれています。

  • 体力・筋力の維持や改善
  • だるさや疲れやすさの改善
  • 生活の質の改善
  • 手術による合併症・後遺症の予防
  • 手術後のスムーズな回復
  • リンパ浮腫の予防や改善
  • 不安や気持ちの落ち込みの改善、リフレッシュ効果

目標

  • 1日20ー30分の有酸素運動(ウォーキング、自転車など)をおこないましょう。
    始めは1日10分でも構いません。徐々に時間を長くしていきましょう。
  • 週に2回は筋力トレー二ングとストレッチをおこないましょう。
    1日合計15ー20分が目安です。筋力トレーニングをおこなう場合はその日に動かす部位の筋肉を念入りにストレッチしましょう。

注意点

  • 主治医と相談し、無理のない範囲でおこないましょう。
  • 途中で息切れがしたり、きつい場合は無理せずに休憩しましょう。
理学療法士

家事や日常の動作も運動のうちです。
新たに運動を始めなくては!と気負わずに、自分の生活スタイルに合わせて活動量を増やすだけでも意味があります。

手軽にできる筋力トレーニング

理学療法士

息を止めず、回数を数えるようにゆっくりとおこなうことが大事です。

ダンベル運動

ダンベルを持った腕を左右に開閉、上げ下げしましょう。
ダンベルがない場合は水が入ったペットボトルでも構いません。

ダンベル運動

壁腕立て伏せ

床に手をついておこなう腕立て伏せがきつい場合は、壁やベンチの背もたれに手をついての腕立て伏せもおすすめです。

壁腕立て伏せ

スクワット

足を肩幅に開いて、手すりなどにつかまります。ゆっくりしゃがんだり、立ったりする動作をくりかえします。
ひざを曲げると負荷が大きくかかるため、浅く曲げることから始めましょう。

スクワット

もも上げ

足を肩幅に開いて、手すりなどにつかまります。片足ずつゆっくりと太ももを上げ下げします。椅子に座ったまま、足を浮かせてキープする方法もあります。

もも上げ

つま先立ち

足を肩幅に開いて、椅子や机につかまって立ちます。
ゆっくりとかかとを上げ、ゆっくり下げる動作をくりかえします。

つま先立ち

佐藤 典宏: 専門医が教えるがん克服21カ条 がんとわかったら読む本 新装版. ブティック社. 2023.