乳がんの症状・
早期発見
女性の社会進出に伴い乳がんの患者数は近年増加しており、今では、女性における部位別がん罹患数の1位です。このページでは、乳がんでみられる主な症状や似た症状がみられる疾患についてまとめました。変化に気付くためには、日頃から「自分の乳房の状態を知る」こと、乳房を意識する生活習慣を取り入れることが大切です。そして、症状だけで乳がんか他の病気かを区別することは難しいため、乳房の異常や症状に気付いたときには時間をおかずに医療機関を受診し、医師に相談しましょう。特に40歳以上の女性は2年に1回の乳がん検診を受けるようにしましょう。
乳がんとは?
乳房は、乳頭から放射線状に張り巡らされている15~20の乳腺葉とそれを支える脂肪組織からなっています。乳がんは乳腺葉を構成している乳腺小葉もしくは乳管の上皮細胞に発生するがんです。長年にわたって女性ホルモン(エストロゲン)のレベルが高い状態にあることで発症リスクが高まるとされており、女性の社会進出が進み、未出産や高齢出産の女性が増えたことが近年の患者数の増加に関係しているといわれています。2024年時点で乳がんは女性における部位別がん罹患数の1位であり、一生のうち乳がんと診断される確率はおよそ9人に1人です。
乳がんの主な症状
乳がんでは主に以下のような症状が起こります。気になる症状がある場合は自己判断せず、早めに医師に相談しましょう。
乳房にしこりができる
乳がんが1cm以上になると、注意深く触ることで乳房内にしこりを感じられるようになることが多いです。一般的に、乳がん以外の病気のしこりはやわらかく、よく動く一方で、乳がんによるしこりは、かたく、ゴツゴツしている、押しても痛みがないとされています。しこりが感じられたからといって必ずしも乳がんとは限りません。良性の変化や腫瘍※でしこりが生じている可能性もありますし、月経周期により乳腺がかたくなり、痛みやしこりを感じることもあります。
- 良性の腫瘍は通常ゆっくりと大きくなり、生涯にわたって症状が出ないものや生命に影響を及ぼさないものもあります。そのため、腫瘍のできた場所や大きさなどを総合的に判断し、必要に応じて手術(外科治療)を行います。
<乳がん以外でしこりがみられる主な病気>
-
乳腺症
30~40歳代の女性に多くみられる良性変化で、月経前にしこりが大きくなり、月経後に小さくなるのが特徴です。しこりに加えて、乳房の痛みや張り、乳頭からの分泌物などの症状がみられます。 -
乳腺炎
産後の授乳期に多い乳房の炎症です。乳汁のうっ滞や細菌感染によって起こり、乳房の腫れや痛み、膿の貯留、発熱や悪寒、ふるえなどの症状がみられることもあります。 -
乳腺線維腺種・葉状腫瘍
10代後半~40歳代の女性によくみられる良性腫瘍です。女性ホルモンの影響によって起こり、よく動くしこりが特徴です。
乳頭から分泌物が出る
授乳期以外に乳頭から分泌物が出ることは、それほどまれなことではありません。透明や白色の分泌物が乳頭の複数の穴から分泌されている場合は、乳腺症に伴って起こる症状であることが多いとされています。一方で、乳頭の1つの穴から血液が混じった分泌物がみられる場合には、乳腺の良性疾患である場合もありますが、乳がんが隠れている可能性もあります。血液が混じった分泌物といっても、必ずしも赤色をしているわけではなく、むしろ茶褐色や黒色のことが多いです。
<乳がん以外で乳頭からの分泌物がみられる主な病気>
-
乳管内乳頭腫
30~50歳代の女性に多い、乳管にできる良性のしこりです。乳頭から透明または血液が混じった分泌物がみられるのが特徴です。がんとの鑑別のためには分泌物の細胞診や針生検が必要になります。
乳頭・乳輪部がただれる
パジェット病という特殊なタイプの乳がんの場合、乳頭や乳輪の皮膚に湿疹ができ、なかなか改善しない場合があります。このがんは中高年の女性によくみられ、乳がん全体の0.5%を占めます。乳管上皮細胞にできたがんが、乳頭の皮膚に進展したことにより症状が起こります。乳頭とその周囲の赤み、ただれ、出血、かさぶたの形成、かゆみ、痛みなどの症状が特徴です。接触性皮膚炎との違いは、外用剤を長期間使っても改善しない場合に、パジェット病をより疑うことになります。
<乳がん以外で乳頭・乳輪部のただれがみられる主な病気>
-
乳輪下膿瘍
乳頭や乳輪は皮脂腺から分泌される皮脂によって保護されているのですが、皮脂の分泌が減少することで皮膚が敏感になります。反対に皮脂が多すぎても分泌物が皮膚に刺激を与えることがあります。その結果、乳輪乳頭部に皮膚炎が起こったり、細菌に感染して化膿したりします。
乳房の皮膚の変化
乳がんが乳房の皮膚の近くに達すると、皮膚のくぼみができることがあります。がんがクーパー靱帯とよばれる乳腺組織を支えている組織に浸潤し、皮膚に固定されるために生じます。具体的にはしこりが触れた部分の皮膚が陥凹してきたり、つまんでゆがみを作った際に、中央が陥没してえくぼのような凹凸がみられます。
わきの下の腫れ・しこり
乳がんのがん細胞は、わきの下のリンパ節(腋窩リンパ節)に転移し、それがあると全身に転移しやすくなると考えられています。腋窩リンパ節に転移すると、わきの下に腫れやしこりを触って確認できるようになります。
乳房が左右非対称
乳房に左右差があるかどうか、鏡に映して観察しましょう。左右が完全に対称という人はまずいませんので、セルフチェックで普段の乳房の状態を知っておくことが大切です。左右の乳房の大きさや皮膚の色に違いがないか、皮膚や乳頭のへこみはないか、形が変形していないかをチェックしましょう。
乳がんの治療法(手術・放射線治療・薬物療法)
乳がんの治療法には、主に手術、放射線治療、薬物療法があります。遠隔転移している場合を除き、がんを手術によって切除することが治療の中心です。放射線治療は、乳房部分切除術とセットで再発を防ぐためにおこなわれることが多いですが、乳房全切除術の後でも再発・転移リスクが高い場合にそのリスクを下げる目的でおこなうことがあります。また、薬物療法で用いられる薬には、ホルモン療法薬、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬などがあります。薬物療法は手術前にがんを小さくするためや術後の再発リスクを下げるため、手術が困難な進行がんや再発した場合に延命や症状を緩和するためにおこないます。
早期発見には定期的な検診が重要
早期発見のための検査には、視診や触診、マンモグラフィ(乳房X線検査)、超音波(エコー)検査などがあります。乳がんは検査や診断の進歩により、ごく小さな乳がんでも発見できるようになりました。40歳以上の女性は2年に1回の定期検診を受けることで、早期発見に努めることが大切です。厚生労働省によると、ほとんどの市区町村では、検診費用の多くを公費で負担しており、一部の自己負担で検診を受けることができます。検診の内容は、マンモグラフィと問診です。
乳がんはセルフチェックで見つけることができる数少ないがんの1つですが、普段の自分の乳房の状態を知ることで、初めて変化に気づくことができます。乳房を意識する生活習慣を「ブレスト・アウェアネス」といいます。入浴時や着替えの時など、日常生活のちょっとした機会に乳房のしこりや皮膚のくぼみ・ひきつれ、乳頭からの分泌物、乳頭や乳輪のびらんがないか、など変化に気を付けることを生活習慣にしましょう。
乳がんの診断手順や早期発見の重要性について、詳しくは乳がん(症状・治療法)のページもご覧ください。
- 参考
-
- 厚生労働省:がん検診
- 国立がん研究センター がん情報サービス:乳がん
- 国立がん研究センター がん情報サービス:最新がん統計
- 国立がん研究センター がん情報サービス:がん種別統計情報 乳房
- 医療情報科学研究所 編: がんがみえる. メディックメディア, 2022.
- 木下 貴之、田村 研治 監:国立がん研究センターの乳がんの本. 小学館クリエイティブ, 2018.
- 日本乳癌学会 編:患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版(第7版). 金原出版, 2023.
- 監修
- 大阪大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科 診療科長 島津 研三 先生
- 掲載月
- 2024年4月